大江山の魅力を発信する者としては、山の植生や生態系を理解し、伝えるための基礎を学ばねば。ということで、今回は京都府が開催した「京都府自然観察指導員等研修会」に参加してきました。会場は滋賀県(甲賀市)との県境、宇治の平等院鳳凰堂からさらに山奥にある宇治田原町というところ。お茶の本場ということもあり、山間に所々お茶畑が広がるとても良い所でした。

午前中は「生物多様性保全のためのコモンズ構築」と題して、同志社大学光田重幸准教授が講演されました。折角遠く大江町から参加したのだからと、獣害対策の考え方について質問したところ、「獣害は間伐など山の管理を充実させるだけでは追いつかない状況にまで深刻化している。シカ肉を海外へ輸出する仕組み、またそのための猟師の育成などが必要ではないか」と答えていただきました。シカ肉の輸出は以前から聞いていた話でしたが、猟師の不足も深刻です。課題が山積していることを再確認させていただきました。

午後は大滝という地域の林道を散策しながら自生植物の説明などを受けました。普段ほとんど注目したこともない路傍の草花の名前を、先輩指導員に一つ一つ丁寧に教わりました。その存在は非常に小さいですが、その一つ一つの性質を知ることで、小さな草花にも生態系のなかでの役割があることを知るわけです。

花びらに蜜腺があるアケボノソウ

花びらに蜜腺があるアケボノソウ

野生の山椒

野生の山椒

天然の山や谷は、土壌、草木、生物たちの営みが絶妙に噛み合い、生態系のバランスを維持しています。一方で人が住む「里山」では、人間が手を加え、長期にわたり地域一帯の生態系のバランスを「意図的にコントロール」してきました。意図的なコントロールとは、たとえば二次林(植樹された森)の間伐などです。適度な間伐を行うことで、森に光が入り下草が生い茂り根を張ることで、森の水を蓄える機能が強化され、土砂崩れの危険性を抑えることができる上に、シカやイノシシのえさとなるため、畑や田んぼの被害も抑えることができます。

大滝は、甲賀市の近くだけあって、忍者が出てきそうな雰囲気でした

大滝は、甲賀市の近くだけあって、忍者が出てきそうな雰囲気でした

大滝の脇には不動様

大滝の脇には不動様

自然観察指導員は、ただ草木や生き物の名前や性質を知っているだけにとどまらず、それらすべてを含む生態系のなかで、それらがどのようにつながり、作用し合っているのかを知り、地域の人々にわかりやすく伝える役割を担っています。しかし現実には少子高齢化が猛烈に進み、里山を維持するために手入れを行える人が不足しています。里山を維持する活動を効果的に進めるためには、若者の移住や雇用の創出なども視野にいれ、できうる限り包括的に進めなければならないと思っています。そのような活動を勧めるにあたり、より具体的な方法を今回の研修で教わることが出来ました。山の魅力を発信するものとして、その魅力を後世にまで維持し、伝えるための第一歩として、とても有意義な一日となりました。